2007年12月13日木曜日

アカウントプランニング④

アカウントプランニング特集4日目の本日は
クリスピンポーターボガスキー(CP+B)の
「フォルクスワーゲンJetta」のCM事例。

まずはCMをご覧ください。
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このCMは本年度のカンヌFilm部門で
金賞を受賞しています。

シンプルだけど、かなりクレイジーで
インパクトがあるCMだと思います。

自動車はアメリカにおいても当然「基幹産業」で、
多額の広告費が動くビジネスであるため、
なかなか思い切った広告表現はとりづらいはずです。

「戦争論」で有名なクラウセビッツも、
『高いところに上るほど、勇気は乏しくなる』
と言っています。

しかし力が入ると逆に空回りすることが多いように、
いかに基幹産業とはいえ
広告主の「思い」だけを詰め込んでも
広告はなかなか機能しにくいです(例外もありますが)。

広告においては基本的には消費者にとっての
「購入動機」をベースにシンプルなメッセージを
訴求すべきではないかと思います。

このワーゲンのCMの場合は、
「頑丈」で「事故になっても大丈夫」という点に
フォーカスして訴求しています。
スピードが出る自動車ほど「安全」が
気になるものだと思いますし。

「安全」に対する渇望は、受け手視点にたてば
人間にとって最も根深い願望の一つであり、
広告コミュニケーションで強調する1点に
なりえる要素である様に感じます。

そして、その「頑丈」の描き方も、
「衝突実験場面」などのありふれた
「コンベンション(慣習)」で表現するのではなく、
現実の「事故現場」という
自動車業界がこれまで避けていた状況で
描いています。

このCMは一見、非常識で過激に見えるかもしれませんが
自動車は「事故」の恐怖が常に付きまとっていて、
現実に交通事故の数も多いわけですから、
個人的にはある意味「誠実である」様にも感じます。

しかし広告主サイドとは猛烈なやり取りがあったことが
予測されます。

いかにウィットのある広告で評判の
フォルクスワーゲンであっても、
ここまでの表現を実施する決定には
かなりの葛藤があったはずです。

しかもおそらく、このCMのオンエア後、
相当な数の「苦情」があったはずですし。

しかし、繰り返しになりますが、
このCMは別にフザけて事故現場を
出しているわけではありません。
CP+BのCMにしては珍しいくらい真面目です。

事故に対するケアはメーカーとしての責任であり、
安全にしっかり取り組んでいることを
メッセージすることは、むしろ誠実だと思います。

そのメッセージを強く訴求するために、
激しい表現モチーフを使用するのも
アリではないでしょうか
(日本の場合は同じことをやったら、
ちょっと急過ぎて大変なことになると思いますが)。

クライアントサイドにある種の英断が
無ければ出来なかったであろうCM事例であり、
その背景には綿密な調査を含むインサイト抽出
およびアカウントプランニングをあったと思われます。

アカウントプランニングは、
消費者自身も意識していないような奥底に、
人の行動を決める気持ちが
潜んでいるのではないかと考えます。

目に見える現象を捉えるだけの消費者分析では、
コンシューマインサイトを見つけ出すことはできません。

心理学の大家であるジグムント・フロイトによれば
人間の意識の95%以上は自分でも知覚できない
「無意識層」
であるそうです。

【Sigmund Freud】


そして人の心には自分にとって都合の悪い体験を
意識から無意識に追いやる「抑圧」という働きがあるそうです。
「抑圧」の過程は「無意識」に起こるので
どんな感情体験や出来事を思い出さないようしているのか
自分自身では自覚できません。

現状の消費者意識は本人に回答させる
「質問紙法」によるものが主流です。

しかし人間がどの程度正確に、率直に
自分の人格傾向について回答するかは、
回答する状況(場面設定)にかなり影響を受けます。
調査会場の状況って普通ではないすし。

さらにそれとは別に
自分の人格傾向についての報告の正確さ
(自分が感じ取ったことを正確に把握する能力)には
かなり個人差があることが明らかにされています。

その根源的な要因の一つが「抑圧」であると
私は感じています。

消費者の購入動機を「調査」に代表される
「科学」のみに頼ることはリスクがある気がします。

ビジネスにおける科学は、
17世紀の医学と同程度である。
という説を
本で読んだことがありますが、
もしそうだとしたら、そんな人に
手術して欲しくないと思います。

ビジネスの「科学化」の努力は引き続きすべき
だと思いますが「科学」のみに囚われていると
真実を見失って足元をすくわれる気がします。

しかし現状の日本の広告界はビックリするほど
「データ偏重」で動いています。

私は大学を卒業して広告会社に入って
最も驚いたことの一つが「過度なデータ偏重」でした。

「データ」って「具体的」だから拠り所にしやすいです。

「クリエイティビティ」の様に正解が曖昧で
ふわふわして形の無いものは「データ」の前に
粉々に破壊されてしまいやすいです。

データは「現在」と「過去」を把握するのには便利ですが、
「未来」のことは、ほとんど書かれていません。
データから「未来」を見つけるのは危険過ぎます。

本当に強力な「未来」は、
「ビジョン」がつくるものです。

広告は「ビジネスアート」であり、
ビジネス50%+アート50%であるのが理想な気がします。
(時と場合でこんなキレイに分かれないとは思いますが)

でも現状はビジネス90%+アート10%くらいな感じが
してなりません。

アートには商売のための「破壊的なパワー」があるはずですが、
あんまりそう思われてないという厳しい現実がある気がします。

ビジネス性が皆無な「広告アート」が存在するという
事実もあるためクライアントが警戒している
という問題もあるからだと思います。
クリエイティブ90%でもダメなのだと思います。

とはいえ少なくとも購入動機発見の段階から
「直感」や「仮説」を重んじた
「クリエイティビティ」が入っていく必要性はあると思います。

もちろん可能な限り「定量的」な「データ」の
裏づけは出すべきですが。

その上で「クレイジーな広告表現」に関しても
マーケティング戦略上の「一種の道具」と
ドライに割り切って効果的に活用すべきだと思います。

話は全く変わりますが、
アカウントプランニングの「創始者」に関して書きます。

アカウントプランニングの始まりに関しては諸説ありますが、
イギリスで1960年代中盤に「スタンリーポリット」という
営業、メディア、マーケを経験した広告マンが始めたとされています。

【Stanley Pollitt】

彼はその後、ボーズマッシーミポリット(BMP)
という世界中に名をとどろかせたクリエイティブエージェンシーを設立。
(現在は「BMPDDB」を経て「DDBロンドン」)

ちなみに彼はボクサーでも有名だったそうです。
データで説明できない場合は、
暴力的に押し通してたのでしょうか。

最終日の明日はアップルの事例です。

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