2007年12月14日金曜日

アカウントプランニング⑤

アカウントプランニング特集最終日の本日は
アップル「Think different」の事例。
日本でオンエアされていましたので、
ご存知の方も多いかと思います。

アップルにスティーブジョブスが戻ってきた際、
「iMac」発表前に実施された企業CMです。
(スティーブジョブスの特集はいつかやる予定です)

日本語字幕が無いので、
先行してナレーションをご確認ください。

【Apple Computer/Think different】
クレージーな人たちがいる。
反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。
四角い穴に、丸い杭を打ちこむように
物事をまるで違う目で見る人たち。
彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。
彼らの言葉に心をうたれる人がいる。
反対する人も、賞賛する人も、けなす人もいる。
しかし、彼らを無視することは誰もできない。
なぜなら、彼らは物事を変えたからだ。
彼らは発明した。創造した。人の心をいやし、奮い立たせた。
彼らは人間を前進させた。
彼らは人と違った発想をする。
そうでなければ、何もないキャンパスの上に
芸術作品は見えてくるだろうか?
静寂の中に、今までにない音楽が聞こえてくるだろうか?
私たちは、そんな人たちのために道具を作る。
クレージーと言われる人たちを、私たちは天才と思う。

自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、
本当に世界を変えているのだから。
Think Different






当時アップルはマイクロソフトの
圧倒的な脅威を受けていて
シェアは4%を切っていましたが、
しかしジョブスの帰還と共に
このCMが「のろし」の様になって
猛反撃が始まりました。

このCM事例においての購入動機は
「機能」という明確なものではなく、
「精神性」という形がなくて抽象的で曖昧な
ものであると思います。

アップルはシェアが少ないことを逆手にとりつつ
ジョブスの理念に基づいた「人と違う」ことの意義を
「鼓舞」するように訴えています。

当時のアメリカでは「こんなメッセージが広告になるのか?」
という議論が頻繁にされたと聞きます。

しかしアップルは、アメリカだけでなく
世界中で「カルチャーアイコン」になっている
数少ないブランドでもあります。

このCMの背景にはアカウントプランニングおよび
クリエイティブブリーフに基づいて制作されていると
思われますが、決して理屈っぽいわけではなく、
むしろ人々の感情を強くゆさぶって勇気づけ、
高いブランドロイヤリティを獲得していると思います。

アカウントプランニングは
クリエイティブを締め付けるものではなく、
訴求点にリアルな人間の視点を注入して
シンプルに1点に絞り込むので、
逆にクリエイティブを自由にするものであると思います。

もちろんアップルは「製品自体」も魅力的ですが、
確実に「広告」がイメージ的に力強い援護射撃を
していると思います。

「アカウントプランニングが広告を変える」によれば、
広告主が何年間もやってきたのは、
消費者に伝えたいことをそのままメッセージにし、
何度も何度もそのメッセージを繰り返すということだ。

しかもそのつど、前よりもっとやかましく伝える。

この背景にあるのは、
消費者は愚鈍だからメッセージを理解させるには
目の前に突きつける必要があるという考え方である。

伝えたい内容をそのままメッセージにするのではなく、
消費者自身がその内容について考える余地を残す方が
広告はより効果的になるのだ。


どんなにクライアントから多額の広告費をもらおうとも
広告を判断するのは「消費者」という残酷な第三者です。

クライアントの成功を心の底から願えば願うほど
消費者の視点を広告に強く取り入れるべきだと感じます。

消費者に受け入れられなければクライアントの成功は
無いわけですので「残酷な消費者の視点」を
広告戦略に組み込まないわけにはいきません。

場合によっては親友に苦言を言うように
クライアントに対して「意見する」場合も
あるかと思います。

社会心理学で「マージナルマン」という用語がありますが、
その組織に属さない人間の方が、客観的にその組織のことが
わかるというものです。

クライアントは製品に命をかけていて
1日中製品のことを考えているプロですが、
広告会社は一日中「消費者」と
「広告」のことを考えているプロであるべきだと思います。

製品はクライアントがつくりますが
ブランドは「社会の承認」がつくりあげるものだと思います。

そして広告会社はマージナルマンとして
ブランド確立のサポートをすべき存在
である気がします。

一方的な思いを伝える広告だけで
成功できた時代はあったでしょうし
今後もその様なケースもあるとは思いますが、
大きな潮流は消費者視点をかなり重視した上での
社会性があるブランド個性の確立が
重要になっていく気がします。

また一方的に伝えたい内容であっても
大量に広告したり面白く表現すれば
当然効果は出るとは思います。

心理学でも「単純接触効果」といって
「何回も接触」したものは無条件で好きになりやすい
という実験結果も出ています。

しかしこの種の広告は一種の催眠術的な要素が強く、
消費者自らが自発的に意志を変えるわけではないので、
12時を過ぎたら魔法が解けてしまう場合が
多いと思います。
つまりイメージの「累積効果」がきわめて弱くて
短期間で広告の効き目が切れやすい、
実は投資効果率が悪い手法だと思います。

話は若干変わりますが、私は常日頃から
消費者にグサっと届く「機能する広告制作」を
最もジャマしているのは、
「自分のことがわかり辛いのは皮肉なことに自分である」
という点であると思っていますが、
これはクライアントの問題などではなく
広告会社の問題であり「人類全体」の問題だと思います。
ボクの問題であり、みなさんの問題だと思います。

バーンバック氏が「相手が正しいかもしれない」と
書かれたカードを常に持ち歩いていた、という逸話が
ありますが、それだけ人間は主観的で
「ひとりよがり」になりやすく、しかしそのことは
自分自身では気がつきにくいものだと思います。

「相手が正しいかもしれない」をさらに飛び越えて、
「自分が間違っているかもしれない」と思うことが
自己革新のための重要なファクターであると
ボクは思っています。
非常に難しいことではあると思いますが。

また「他者の視点」を「定性的」に取り入れる
アカウントプランニングという広告手法は、
ある意味で「経営に占い師を組み込む」様なものであり
当然リスクも伴います。

しかし現実には「占い師」を組み込まなかったとしても
現在の経営は「リスクだらけ」ですので、
だったら試しに組み込んでみてもイイ気もします。

本日のCM事例のクライアントである
アップルは「スティーブジョブス」という
経営者そのものが「占い師」である企業です。

しかしそのアップルが90年代トップクラスの成功を納めた
企業であるという歴然とした事実もあります。
この点は無視できない重要な要素だと思います。

ただし何でもかんでも直感に頼る「超占い師型経営」は
それはそれで偏る気がします。
例えばナイキのフィルナイトの前職は「会計士」という
かなりデータ畑の人だったそうですし。

データを無視した「占い師」ではだめなのでしょう。

また小林保彦教授の本に書いてあったのですが、
アカウントプランニングがCD(クリエイティブディレクション)と
融合した「クリエイティブコンセプティング」という動きも海外では
あるそうです。
用語ばかりが先行するのは良くないですが、
その様な動きがありCDの職能定義の変更の
可能性もある気がします。

広告業は特殊な業種です。
「データ・定量系」の部署と
「クリエイティブ・定性系」の部署が
並存している珍しい組織形態です。

また様々な業種も扱っていて
いろんな業界の消費者動向にも長けています。
この点はクライアントには無い要素だと思います。

広告とクリエイティブは本当に楽しくて
幸せな仕事だとボクは思っています。
自由で面白いクリエイティビティは
賞を取るための手段や夢物語ではありません。

ビジネスを推進させる最も破壊力がある核兵器なはずです。

その突破口であり広告に関わるすべての人たちが
幸福になるシステムが、
アカウントプランニングだとボクは思ってます。


ちなみに・・・

ナイキトリビア①
1980年にフィルナイトが初めて
ダンワイデンに会った時に口にした言葉は
「フィルナイトと申します。広告は大嫌いです。」
だそうです。クールだ。

ナイキトリビア②
1983年の段階でナイキは
ワイデン+ケネディではなく、
シャイアットデイに広告制作を依頼しようとしていた。

ナイキトリビア③
Just do it.は最初は
「Just fuck it.」だった。

5 件のコメント:

金井秀徳 さんのコメント...

アカウント・プランニングのお話
土日にがっつり読ませて頂きました。

「クライアントの成功を心の底から願えば願うほど
消費者の視点を広告に強く取り入れるべきだと感じます。」

この一文、ぐっときました。
簡単なことではないでしょうけれど、
トライしていきたいひとつです。

ナイキトリビアの3がもしキャンペーンになっていたら、
ナイキは今とは別の企業になっていたんでしょうかね。

望月和人 さんのコメント...

消費者という「他人」の視点を
意識しないと、
クライアントは自社製品にとって
都合の良いことばかり考え、
クリエイターは自分のやりたいことを
優先させる傾向が強いように思います。
それも自覚なしに。

自分の知覚がすべて間違っている
くらいな前提で考えていかないと
自分では気づかない間に
落とし穴にはまる可能性がある気がします。

ボク自身も普段気をつけているのは、
「激しい決めつけ」や、
「反論したい衝動」にかられても
一度自分自身の脳内で
「自分が間違っていたとしたら」と
問いただすことを心がけています。
それでも客観的な視点を獲得する難しさに
辟易しています。

望月和人 さんのコメント...

ナイキのコピーは正確には
Just go ahead,just fuck it.
(やれよ、よっちまえよ)だったそうです。

余談ですが昔とある本で
Just do itのことを
(やるっきゃない)と訳していて
かなり興ざめだったことがありました。

金井秀徳 さんのコメント...

「やるっきゃない」
嫌ですねぇ。けど、ウケました。

90年代のドラマで出てきそうですもんね。

望月和人 さんのコメント...

逆にやる気なくすよね。