2008年7月25日金曜日

消費者インサイト⑤「IKEA・CM③」

「消費者インサイト」特集、最終日の本日は
IKEAの2本のTVCMです。

1本目はシンガポールで制作されたCMです。



このCMの場合は「消費者インサイト」というよりも
「クリエイティブインサイト」的な事例な気がしますが、
「TVCM」という「企業が自慢をする」ことが前提となった場で
「部屋が見ちがえる」という点をそのまま訴求しても、
信じがたい感じがするので、「子犬」という別の視点を通じて
カワイク「部屋が見違えった」ことを訴求することで
ターゲットにとって受け入れやすく変換しています。

2本目は、このブログでも何回か扱わせて頂いている
CP+B制作による「LUMP」篇。



このTVCMに関して、クリエイティブ・ディレクターの
アレックスボガスキー氏が以前「広告批評」でインタビューに
答えられていまして、この内容が大変素晴らしく
「消費者インサイト」や「プロポジション」を含む
「クリエイティブブリーフ」の様な内容になっていますので
ぜひともご覧いただけますか。

IKEA「LUMP」TVCMについて
アレックス・ボガスキー/クリスピンポーターボガスキーECD


そこで発見したことは、どの家にも必ず、
誰もが厄介に思っている家具があるということだ。

なぜ厄介かというと「おばあちゃんがくれたから捨てられない」
という、ある意味家具とは関係のないヘンテコな理由が
つきまとっているシロモノだから。

アメリカにはインテリア番組や雑誌が山ほどあって、
しょっちゅう家に注意を払っているのに、
家具のことは脅迫観念に近い感情で接している。
それって超ツマラナイ、退屈なことだろう。

クルマなら値段が高くても、買い替える習慣が定着しているし、
ある意味ファッションの要素がとても強い。
ストーブや冷蔵庫だって、もはやファッションだ。
でも家具だけが進化しなかった。

それが退屈であることは薄々気づいているのに、
社会心理のせいでしかたないと諦めるのが一般的なんだ。

だから、古いランプが家の前に捨てられて、
雨に打たれている情景を見ると、
ある種の罪悪感にかられてしまうんだね。

だったらイケアの広告がやることは、
退屈なことは退屈だと言っていいんだという
許可を与えてあげることじゃないかと思ったんだ。

誰がくれた家具であろうと、罪悪感と戦う必要はないんだと。

こういう家庭事情を考えていくと面白いことが見えてくる。
捨てられなかった家具は親が子供たちにあずけることで、
自らの肩の荷を下ろすんじゃないか。

で、親が楽になると同時に子供の代の苦しみが始まるんだ。

僕らはこれを「家具における恒久性」と名づけて、
このループからみんなを助け出そうと思ったんだ。


個人的にはこのインタビューでボガスキー氏が語っている内容は
「これぞ消費者インサイト」「これぞアカウントプランニング」
という風に感じました。

消費者インサイトは「定量調査」よりもはるかに直感的で、
その意味ではかなり「クリエイティブ的な領域」である様に感じます。
そのため「科学性」がうすいのでビジネスにおける地位が
獲得しにくいと思います。

しかし青山学院大学の小林保彦教授が友人の物理学者に
「物理学の世界でスーパーコンピューターを10台ぐらい
使ったら消費者がつかまえられないか」とたずねたところ、
「変数が変数を呼んで、次の違う変数を作っていくだけだ。
それよりは高給を払って勘のいい人を雇った方が絶対に得だ」
と言われたそうです。

著名なアカウントプランナーの「ジョンスティール氏」いわく、
広告は科学みたいなものでとらえられるような
小さなモノではない。

と言っていますが個人的には同感です。ただし・・・
しかし芸術でもない。
とも言っています。

DDBの創始者「ビル・バーンバック氏」は
広告を「説得のアート」と呼びました。

世界最高のマーケティング力をほこる「P&G」も
最近では「ガッツフィーリング(直感による仮説)」から
プランニングを始めるそうです。
やっぱり直感は大事なんだと思います。

ビジネス界は「数字」などの様に「具体的に計測できる」ものだけを
偏重する傾向が強い気がしますが本当にビジネスパワーがあるものは
「数字」や「前例」から漏れるものであることが多い気もします。

現状のビジネス界では「測定できるもの」と「できないもの」との
「価値のアンバランス」が問題であると思います。

商品の「回転率」や「利益」を測定するには
「表現パワー」などの感覚値的な要素は
全体から切り離して断片化するしかありません。
そのため「効果」を問うことをやめて数値で把握しやすい
「効率」競争に陥るのだと思います。

そして「机上の空論」に基づいた戦略や広告表現が生まれ、
広告の奴隷を大勢生んでしまっている気がします。
広告戦略の川上からボタンのかけ違いが起きている感じがします。

個人的には今こそ世界のビジネス界で長いこと忘れ去られている
「ヒューマンタッチ」を取り戻し「人間中心の市場」を
つくり上げる時期であるように感じます。

そしてそのルネッサンスのカギは「アカウントプランニング」にあり、
その中核を担うのは「他者を配慮」して「真の人間の気持ち」へと迫る
「消費者インサイト」が重要である気がします。

アカウントプランニングは、世界的には流行が終わり、
日本的には導入に失敗したため「使えない概念」と
思われている様な気がしますが、
個人的にはポテンシャルがある気がしてなりません。

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